今回の修理範囲に関しては、国(文化庁)の指導、及び、専門家・地元関係者で組織した「通潤橋保存活用検討委員会」(保存に関する検討部会)において議論を重ね、決定を行いました。 ◆ 文化財修理の基本方針 通潤橋は堅固なアーチ構造や熊本城の石垣を参考に築かれた鞘石垣(さやいしがき)を有し、江戸時代後期における肥後の石工の高い技術力により建造され、他に類例のない貴重な石橋として国の重要文化財に指定されていることから、その高い価値を損なわない内容と方法とする。(最小限の範囲とし、可逆性のある方法を用いること。また緊急性がある場合を除き予防的措置は極力行わない。) ◆ 石垣の修理を手摺石部分の上から2段目までとした理由 (1) 経年変化による孕み出しの評価 ・経年変化による孕み出しは、道の駅側(上流側・西面)の右岸と左岸の双方に存在し、昭和46年、昭和58年より認められている。熊本地震以前に策定した『重要文化財通潤橋保存活用計画』(平成27年3月策定)では、平成22年、平成25年に実施した3次元計測にて経年変化による孕み出しの進行は確認されなかったため、「緊急に影響を及ぼすものではない」という判断を行い、モニタリング等により長期的に経過を観察し、危険性が認められた場合に修理等の対応を行う方針としていた。 ・また、平成28年4月の熊本地震直後より実施した定点観測においても、変位は確認されていない。 (2) 熊本地震による修理工事の考え方 ・熊本地震による変位は、右岸・左岸とも上部に留まっており、(1)と総合して検討した結果、従来からの経年変化による孕み出しがすぐに修理を要するという顕著な緊急性は認められないと判断した。そのため、『重要文化財通潤橋保存活用計画』の考え方に則り、従来からの経年劣化による孕み出しの対応は長期的な課題として取り扱い、熊本地震による変位のみを短期的課題として修理の対象とした。 (3) 通潤橋の石垣の評価 ・熊本地震により最大で震度6弱の強震に見舞われたが、崩落には至っていない。(強度の高い石垣と評価される。) ・壁石垣の上部より2段目までは「手摺石」と呼ばれ、通常の石垣にある裏込石がなく、横の石垣と堅固に噛み合い自立している。3段目以下の橋の本体構造となる石垣部分では、手摺石以上により堅固に噛み合っていると想定される。 ・石垣の耐震性能や強度について、現在においても診断の方法や基準等は定められておらず、科学的な検証は極めて困難。 ・解体して積み直しを行うことが必ずしも建造時(オリジナル)の石垣より強度を高めるという保証はできない。 (4) 修理履歴 ・壁石垣上部より3段目以下の橋の本体構造となる石垣は、過去の修理工事において一切扱われたことがなく、建造当初の姿、技術が明瞭に残されている。また、その内部構造については、実見した例はなく、明らかではない。 ・昭和46年には、今回の修理工事と同様に、左岸上流側の手摺石の一部を手前に引き戻す形で積み直された履歴がある。 ⇒ (1)から(4)の観点での検討を踏まえ、 ” 現段階において ” 修理を行う必要がある最小限の範囲として、熊本地震による変位のうち、手摺石部分(上から2段目)までを対象とし、過去の修理にならい手前に引き戻す方法を採用した。 |