今回の地震による通潤橋の復旧工事に際して、通水石管の目地に用いられている漆喰(しっくい)づくりとその充填に係る作業が中心となると想定されています。
ここでは、通潤橋の漆喰の概要と価値について説明します。
通潤橋の漆喰
通潤橋の漆喰は、当時の建設事業責任者である矢部手永の惣庄屋の職にあった布田保之助が記したと伝わる「通潤橋仕法書(つうじゅんきょうしほうしょ)」(町指定文化財、通潤地区土地改良区所蔵)の中に、その材料の配合と作り方が示されています。また、「南手新井手記録(みなみてしんいできろく)」(町指定文化財、通潤地区土地改良区所蔵)という記録では、「八斗漆喰(はっとしっくい)」と記載され、関係者が試行錯誤の末に完成させたとあります。
この「通潤橋仕法書」によれば、漆喰には、土(5合)、白灰(2升)、砂(1升8合)、塩(1合)、及び松葉を煮沸した松葉汁(まつばじる)の5種類の材料が用いられています。これらを混ぜ合わせて(臼でつきあわせる)、二日二夜寝かせたのち、再びつくという工程を経て、日に当て乾かしもみ砕き、粉になったものを手で握り締め、手を緩めたときに三つ四つに割れる位の湿気をもった漆喰が完成するとされています。しかし、「通潤橋仕法書」の記述だけでは、土や砂、白灰(現在は消石灰を使用)の性質や仕様のほか、松葉汁の量など製作工程においても不明な部分が多くあるため、漆喰の見た目や感触、湿り気などはよく分かりません。そのため、こうした部分については、これまで実際に漆喰での維持修繕を続けてきた関係者(経験者)の感覚により伝承されています。
これら漆喰に係る作業は、製作だけでなく材料の採取や橋上の被覆土の掘削、既存の漆喰の除去、目地への充填などの作業があり、非常に労力を要します。このため、近い将来、地元関係者のみで対応していくのは困難になると危惧されています。
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写真1 漏水状況の確認作業 | 写真2 劣化した漆喰の除去作業 |
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写真3 松葉汁づくり | 写真4 完成した松葉汁 |
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写真5 土・消石灰・砂・塩を混ぜ合わせた状況。 松葉汁をこののち入れて搗く(つく)。 | 写真6 一度材料を搗いたのち、寝かせている状況 |
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写真7 寝かせた漆喰を搗き戻す | 写真8 搗き戻した直後の漆喰 |
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写真9 目地穴に充填する漆喰 (この分量ごとに約70回搗き固める) | 写真10 目地穴に漆喰を充填している様子 |
通潤橋の漆喰の意義
漆喰の代わりにセメントを用いた場合、修繕にあたり石管を傷を付けることなくセメントのみをきれいに取り外すことが困難になるため、通水石管ごとの改修が必要になります。漆喰は、セメントと比較して弱い材質ですが、壊れやすいところをあえてつくり、補修をこの部分のみに留める役割を果しているため、石管自体の長寿命化が可能となります。通潤橋では、漆喰のほか、通水石管自体も部分的に交換することが可能な仕組みとなっており、”壊れた部分のみを補修し続ける”ことで施設を長寿命化させるコンセプトが取り入れられています。
漆喰の詰め替え作業は、現役の水路機能を維持するために必須な維持管理作業であり、現代社会と関係を持ち続けている「生きた文化財」という、通潤橋特有の価値を象徴するものといえます。
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写真11 充填後の漆喰(1) | 写真12 充填後の漆喰(2) |