2014年3月27日、袴田事件再審決定のニュースが伝えられた。
重要な証拠が捜査機関によって捏造された疑いがあり、これ以上拘置を続けること
は耐え難いほど正義に反すると、袴田巌は即日釈放された。
48年の拘禁生活から解放された巌の表情に喜びは見えなかった。突然の釈放に戸惑
っているのか、それとも拘禁症による精神的ダメージによるものか……。
その後、東京後楽園ホールのリング上で世界名誉チャンピオンのベルトを巻く巌の横
には、彼を信じ、支えてきた姉・秀子の姿があった。
それから毎週のように巌と秀子の家を訪れ、取材を重ねた。拘禁による妄想は今も続
いていたが、一方で巌の気持ちが解きほぐされていると感じるときもあった。
将棋三昧の日々を送ったり、親戚の赤ちゃんを抱いて好々爺の表情を見せることもある。
ボクシングの話題になると、半世紀前の記憶がよみがえり、試合の論評もする。彼の妄想の世界は、日常という現実の世界にゆっくりと包み込まれつつある……。
(キネノートより)