(前回から続く)
次に向かったのは,入佐の八田勇さん宅の裏にある湧水です。ここ入佐地区は,地区の至る所から水が湧き出ています。水が豊富なところは古くからの集落のようです。
八田さん宅の水源には水壺を持った女性像が祀られています。「入佐風土記」でこの像は弁財天ではないかと記されています。
次に八田弘悦さん宅の庭にある五輪塔を見学しました。鎌倉・室町時代のものだと言われています。この庭をながめるかのような位置にある蔵を改良した素敵な建物が目を惹きます。
次は坊ノ園の「井川さん」と呼ばれる湧水地です。ここでは,高森光徳さんから不思議な話を聞きました。「井川さん」にあるタブの木を切り倒そうとチェンソーの刃を当てても切れなかったので,神主を呼んでお祓いをしてもらいやっと切れたそうです。
一方,高森勅宣さんは,道路を挟んで「井川さん」の反対側に昔あった岩風呂の話しをしてくれました。岩風呂というのは,岩壁をくり抜いた穴の底に焼いた石を敷き,その上から濡れ筵をかぶせ,ヨモギや菖蒲などの薬草を敷いた平安時代の蒸し風呂のことです。旧矢部地区には4箇所(内2箇所は現存)あったと聞いていますが,ここにもあったんですね。
「井川さん」の道上には,観音堂があります。風土記には,観音菩薩と毘沙門天と持国天が祀られているとあります。
「井川さん」の
横をる農免道路を登ると「トトロのバス亭」が見えてきました。映画「となりのトトロ」に出てくるバス亭を模して作られたバス亭です。高宮晃裕さんが,孫のために作られたバス亭だそうです。心温まるものを感じました。
そのバス亭の前が,昔から「頓宮」という屋号で呼ばれる高宮晃裕さん宅です。「頓宮」とは仮の宮のことで,阿蘇大宮司ゆかりの地らしい屋号です。
高宮晃裕さん宅では,「狩の場面を描いた軸」や「布田さん人形」そして「文楽の見台」などを見せて頂きました。軸には,「安政四年歳在丁己王□□院縮寫之東都画□□□」(田上注・□の部分は相当文字の入力ができないまたは定かではない)とあります。どうやらこの軸は,安政四年(1857)に東都(あずま)画史を縮写したものらしいですね。
「布田さん人形」は,もちろん布田保之助さんを模した人形です。いつの時代にどれくらい製造されたのか,あいにくぼくは知りません。ご存じの方は教えてください。
文楽の際に太夫が使う見台も見せて頂きました。立派な見台です。2階に上がる階段の横の天井のガラスケースに飾ってありました。
高宮家の玄関を出ようとしたら,玄関に掲げられていた「熊本県方面委員」という表札を見て,だれかが「これは何だろう?」とぼくに尋ねてきました。たまたま,ぼくは仕事柄知っていたので「それは,今で云う民生委員のことですよ。」と答えました。日本にも,低所得者層の救済など地域の社会福祉事業を目的とする活動を行う方面委員制度が戦前からあったのです。それが,戦後民生委員に変わりました。
(次回へ続く)
2021年09月21日更新