時代劇などを見ると、昔の人々が本名とは別に通称名などを使っていたことを知ることができます。通称名だけではなく、幼名や元服してからの名前など、その時代時代に応じて名前を変えていたこともわかります。

 

 昔は、そのように自由に名前を変えることができたようです。それができなくなったのは、明治5年5月7日(太政官布告149号)の「複名禁止令」と同年8月24日(太政官布告235号)の「改名禁止令」によってです。

 

  実は、その布告の前にもう一つ苗字に関する布告が発せられています。明治3年9月19日の「自今平民苗氏被差許候事」すなわち、平民も自由に苗字を公称できるようになりました。しかし、この布告はあくまでも平民に苗字の公称の自由を認めただけで、苗字の公称を強制するものではありませんでした。

 

 そこで明治政府は、明治8年2月13日に「自今必苗字相唱可申」と平民に苗字の必称を命じました。ここに至って、国民はすべて苗字を名乗ることになりました。

 最も、その必要性は明治5年から施行された戸籍制度がその背景にあるからです。そして、その戸籍制度は主として徴兵、徴税、治安警察等の用に供されました。

   

  さらに明治31年施行の旧民法は、その第746条で「戸主及び家族は其家の氏を称す」と定め、さらに同第788条第1項で「妻は婚姻によりて夫の家に入る」と定め、夫婦同姓が定められました。

 

 そして、昭和23年1月1日施行の民法では、その第750条で「夫婦は、婚姻の際に定めるところに従い、夫又は妻の氏を称する」となりました。

 

 以上のように明治以降苗字と名前についての定めが変わりました。さて、今でも、本来の氏名とは別にペンネームや芸名さらにはニックネームなどを使用される方が多いかと思います。かくいうぼくも、音楽関係者との間では、イエペスと言うニックネームを使用しています。イエペスというのは、あの映画「禁じられた遊び」のテーマ曲を演奏したギターリスト・ナルシソイエペスにあやかりたく本人の許しなしに使用しています。本来の名前と違う名前を使うと別人になったようです。

 

 宮崎駿監督の映画「千と千尋の神隠し」では、主人公の千尋が湯婆婆のもとを訪れる前に、ハクに「本当の名前」を決して名乗ってはいけないと言われました。「本当の名前」を名乗ることは何を意味するのか。相手に名前を知られることは、相手に支配されることに結びつく。逆に言えば、名前を知ることでその人物の全てを知ることが出来ると考えられたのではないかと思います。現在で言うと、個人番号だったり、パスワードに置き換えることができるかも知れませんね。

2021年10月20日更新